aether fish

落下

土曜日。

地面に赤く濁る体液を飛び散らせた僕はぼんやりと空を見上げていた。
灰色の空、急速に大きさを増していく黒点。
カナコだ、カナコが僕の後を追って落ちてくる。

「おいで」

ゆっくりと両手を差し出す。
呟いた声は、彼女の太ももが弾けた音でかき消された。

しばらくしてふわりと全身が浮くような気分に目を開くと、僕の両目はそれぞれ違う景色を映し出していた。飛散した体がしゅうしゅう音を立てて縮まる。

光が近い。
僕の全身はゆらゆら揺れながら、雲の上へと昇っていく。意識が薄れていく中、僕の脳裏をカナコの姿が過ぎる。カナコの体は何処へ行っただろう、そう思って僕は地面を見た。体中の関節が奇妙にねじ曲がり、口から血の混じる泡を吐きながら、カナコはうつろな目で微笑んでいた。

火曜日。

再び目を開くと、カナコは既に僕の隣におり、僕の髪をなでていた。
「やあ」
「また会えたわね」
僕らは何度目かも分からなくなった邂逅を喜びあう。
「いやだ、死にたくない。俺はもう死にたくない」
僕らの斜め後ろで震えた声を発しているのは、全身を拘束され目隠しをされたサイトウだった。
「俺はもう充分に苦しんだんだ」
目隠しの布の下から涙が滴っている。
「いやだ、もういやだ。頼む、誰か俺を許してくれ」
その時、膨れあがったサイトウの足下にマンホールほどの穴が空き、彼は雄叫びを上げながら落下していった。

再び、土曜日。

「僕ももうそろそろかな」
僕の体は連日の暑さで限界まで水蒸気を含み、いつその瞬間が起きてもおかしくない状態だった。
「それじゃ……」
「待って、私も一緒に行くわ」
カナコはそう言うと、すぐ側で眠るヤヨイの体をふっと持ち上げた。カナコは無表情のまま、ヤヨイの頭部を右手で持つと左手を首に添えた。そのまま勢いよくねじると、首の骨がゴリゴリと砕ける音がした。ヤヨイの口から雑巾を絞ったような悲鳴が漏れる。180度捻ったところで、カナコは首を引きちぎった。
「何てことを……」
僕の声が聞こえているのか居ないのか、カナコは僕に背を向けてヤヨイの体を貪り始めた。聞くに耐えない生々しい音があたりに響く。周りにいた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。あとに残されたのは、僕と、カナコと、ヤヨイの残がいだけだった。口から下を真っ赤に染めたカナコは、寂しそうに笑った。
「わたしたち、死ぬために生まれているのかな、それとも生まれるために死ぬのかな」
瞬間、地面についたはずの右手が地中にずるっとめりこんだ。

『本日の最高気温は28度。
午後には全国各地で雷を伴った大雨となるでしょう』


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ぽつり、と。
やっぱり今回も無駄に過ぎただけの人生だった。
 
 

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Date:2008/04/10
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